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川端康成の小説『古都』は、四季折々の風物が描かれた究極の「京都本」!

執筆期間中に眠り薬を乱用していたため、うつつなまま書き上げたという『古都』は、著者の川端康成いわく「異常な所産」となった作品。新聞の連載から出版の際に、校正でずいぶん直したそうですが、この作品の特色となっていると思われる行文の乱れや調子の狂いはあえてそのまま残したということです。このような背景が影響してか、作品は人物の揺れ動く心情を描きつつも、低いトーンで淡々と展開します。

京呉服問屋の一人娘・千重子は、ある日自分と瓜二つの娘・苗子と出会います。二人は幼い頃に生き別れた双子だったのです。「捨て子」という出生の秘密に悩んでいた千重子ですが、村でたくましく働く苗子を愛しく懐かしく思います。しかし、永すぎた環境の違いのため、お互い一緒に過ごすことはできないのでした…。

この小説のメインは、何といってもタイトル通り「京都」でしょう。葛藤する美しいヒロインの運命でさえ、京都の風土を描写するうえでのエッセンスに過ぎないのでは…?と感じさせるほどです。

物語は、千重子が幼なじみの真一と出かけた平安神宮の春の桜見から始まり、祇園祭の人混みの中で双子の苗子と出会い、秋の時代祭りを経て、淡雪の降る冬で終わります。この間、葵祭、大文字、北野踊、事始めなどの京都の代表的な年中行事のほか、清水寺、錦市場、仁和寺、上七軒などの名所が多く登場します。

さらに、主人公の日常に京の老舗店がさりげなく出てくるのも見逃せません。着物の図柄を考えるために嵯峨の尼寺にこもっていた父親に、千重子がみやげとして持っていったのは「森嘉」の豆腐でした。「森嘉」は現在も行列ができるほど人気の豆腐やさんです。また、祇園祭の頃、牡丹湯葉を買いに行ったのは、御池通りの「湯波半」。すっぽん料理で有名な「大市」も出てきます。加えて、京都の昔ながらの風習やそれぞれの祭りの起源なども説明されているので、ストーリー以外の楽しみを見つけることができます。

この小説は、現在受験者が増えつつある話題の「京都検定」にも役立ちそうな一冊。受験対策の副読本としてオススメかもしれません…!

(データ)
●川端康成/かわばたやすなり(1899−1972)
 『伊豆の踊子』、『雪国』、『千羽鶴』、『山の音』、『眠れる美女』など

夏の風物詩・祇園祭と秋の嵯峨野。

作品では、京都の四季それぞれの美しい景色がいきいきと描かれている。